この要旨の出典:
本間知夫 1999. チャの根の電気的特性計測と環境応答. 根の研究 8(4):*.
1.はじめに
永年生作物であるチャは、一度植えられると20〜30年といった長い期間栽培されるが、茶葉を良質・多収に収穫するために多量の窒素肥料が茶園に施され、それが今では環境問題やチャの根の障害といった問題を引き起こしてしまった。地下にある根の生理状態を根を掘り出さずに、迅速に調べる方法として、演者は茶樹の生体電位を計測する方法について検討を行ってきた。この方法は動物で言う脳波や心電図計測に代表されるような電気生理学的手法の一つで、対象物より非破壊的に、リアルタイムに電気的情報をモニターできる利点がある。
2.生体電位計測による茶樹根の状態のモニタリングの可能性
鉢植え茶樹を用い、根に対する過剰施肥や極端な処理(熱湯浸漬)を行って根を障害させたところ、電位値は0に近い値を示すようになった(対照の正常個体では-40〜-60mV)。この時の根の呼吸速度は障害(褐変)根で低くなっており、生体電位計測により根の状態をモニタリングできる可能性が示された。しかし正常個体に対して一過的に多肥処理を行った場合も、電位は0に近い値を示したことから、これらの区別ができる指標の必要性が出てきた。
3.根の電気的特性の計測
測定系を簡単にモデル化すると、根の内外の電位差を測定していると考えられる。そこでまず、根1本という簡易なモデル系における電位測定及び環境応答として水耕液中の硫安濃度を変化させたときの電位変化を調べた。水耕栽培苗より根を約3cmの長さで採取し、切り口は基準電解液(10mMリン酸緩衝液、pH6.5)に浸し、ここに測定電極を置いた。根全体を水耕液に浸してここに基準電極を置き、両電極間の電位差を根1本の電位として測定した(約-40mV前後)。水耕液中の硫安濃度を一過的に変化させた時の電位変化は、個体で測定した場合とよく似た変化を示し、特に高濃度の硫安を含む水耕液(3000ppm。通常は30ppm)に置換したとき、電位は+20mvを示した。硫安濃度を通常の濃度に戻すと電位も元の値に戻り、電位変化を一過的に変化できることが明らかとなった。
そこでさらに根の電気的特性として、電気抵抗(インピーダンス、Z)と静電容量(キャパシタンス、Cs)の測定を試みている。現在のところ、各パラメータの周波数特性、根を障害した時の変化を調べているが、障害によりZよりもCsの方が顕著な変化を示す傾向があるようで、引き続き検討中である。